訪問レポート 健康経営 元気!つくってますVOL.4

株式会社ローソン/ローソン健康保険組合

「マチの健康ステーション」を支える
事業主+健康保険組合のコラボ政策とは

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(左から)

ローソン健康保険組合常務理事 山本雅之氏
ローソン常務執行役員 宮﨑純氏
ローソン健康保険組合事務長 髙橋恵子氏
 厚生労働省「データヘルス計画」でも強調されている「コラボ・ヘルス」。企業と健康保険組合が連携して、従業員の健康を効率的に向上させていく取り組みを積極的に推進しているのが、株式会社ローソンとローソン健康保険組合です。
 事業主、健康保険組合双方の立場からの、「コラボ・ヘルス」への思いやご意見を伺いました。
未病からハイリスクまで
まず職員が健康になることを目指しました
株式会社ローソン 常務執行役員 宮﨑純氏
 ローソンは2015年で40周年を迎えました。全国に1万2千店舗、1か月に3億人以上の方にご利用いただき、売上の6割が「食」です。そこで、食を通じて皆さんの健康をサポートしたいという思いで、親しまれてきたスローガン「マチのほっとステーション」を、2013年10月から、「マチの健康ステーション」に変えました。

●健康ステーションとしての試み
 ご承知のとおり超高齢化社会のなかで医療費はあがり、健康寿命と本当の寿命に10年の差があるのは社会的な課題です。そこでまずは健康に留意した「食」を提供しようということ、さらに365日24時間オープンしているローソンにできることは何かと考え、一般用医薬品(OTC医薬品)の販売と、そこでちょっと健康相談ができるような店舗を増やしています。
 また地域の自治体と提携してローソンの駐車場に検診車に来てもらい、健康診断を行うということも実施しています。健康診断の受診率は、国民健康保険は1割か2割程度だそうです。そこで健診1か月以上前から店舗で「ここで健診をやります」とアピールしたところ、通常1か月で数十人程度の受診数しかないところ、1日で140人ほどの受診者が来てくれた店舗もありました。このように、地域の皆さんの健康をサポートしたい……というのが「マチの健康ステーション」というスローガンの意味です。

●職員の健康状態の改善は企業としての責任
 では、健康をスローガンにしているわが社の職員たちの健康はどうだろうと省みたとき、あまり健康といえる状態ではありませんでした。
 大きなきっかけとなったのは、2012年に部長クラスの社員2人が健康を害し、長期職場離脱を余儀なくされたことでした。そのときにトップが、「これではいけない。健康をスローガンにしていこうとしている会社で、まず自分たちから健康にならなくてどうするのか」という大号令を発し、そこから健康保険組合と一体となって職員の健康に積極的に取り組むようになりました。
 2013年から健康診断を受けないと本人はボーナス15%ダウン、上司も10%ダウンというディスインセンティブをつけたところ、健診率100%を達成。さらに要再検査の結果に対して再検査を受けないと2~8%のダウン(本人のみ対象)、こちらも数人をのぞいてほぼ100%の再検率に届きました。
 つまりボーナスという業務査定のなかに、健診を受けることを含んだのです。自分の健康、部下の健康に留意するのも仕事の一部だから、きちんと管理しなさいという考え方を浸透させるのが目的です。
 また健康保険組合が企画・実施する「健康アクションプラン」にも、今年から積極的にコラボしています。健康によい行動を起こすことでポイントがたまり、ローソン加盟店で買い物ができる「ヘルスケアポイント」は、職員にも好評のようです。

●コンビニ事業で「未病」対策を
 医療費削減という視点でみると、健診を受け再検査を受けることが当たり前になると、いったん医療費はあがります。しかし、今医療費をかけても将来大病にならず悪化もさせない、将来かかる高額の医療費も抑えられる。職員が健康で能力を発揮してくれる。早期発見&予防のために医療費がかかることは、よいことだと思っています。
 医療ではなく未病対策をコンビニ事業として見据えていこうと考えています。健康なうちから留意するという「予防マーケット」です。病気になり膨大な医療費が降りかかってくる前に、たとえば減塩のおにぎり、ミネラル豊富なサラダ、低糖質のパンといったものを作りご提案してビジネスをしていく。予防に少しお金をかけることによって、将来の医療費を抑え、健康寿命を長くして、幸せな生涯を送る。そのために貢献できる企業を目指していきたいと思っています。

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ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ
二段構えで全職員の生活改善を目指しています
ローソン健康保険組合常務理事 山本雅之氏
 コンビニエンスストアの業種特徴として、「食」を提供している関係で、どうしても試食が多くなるという特徴があります。また、店舗を巡回する巡回指導員は、1人平均9店舗を担当しているため、車で移動せざるを得ず、歩く機会が減り、さらに車の中などであわただしく食事をすませることが多くなるために、栄養バランスが悪かったり早食いになったりします。一方店舗の従業員は、24時間のシフト制の勤務になるため、食事や睡眠などの生活リズムが乱れがちになるという面があります。
 このような背景があるため、当健康保険組合では、特定健診が始まった段階から40歳以上に限定せず、全年齢で問診票の記入と生活習慣病の健診項目の受診を実施してきました。全年齢の健診データの解析を積み重ね、肥満や、生活習慣病とよばれる糖尿病、脂質異常症の増加という課題に着目し、「すべての職員に生活習慣を見直してもらう」健康増進策と、「健診データで要注意の数値が出ている人」への個別の行動改善支援という二段構えで、被保険者の健康状態に合わせたアプローチをしています(図1)。

●みんなで健康になるためのポピュレーションアプローチ
 全員が健康になるということに関しては、事業主とのコラボで進めている「ローソンヘルスケアポイント」が職員の方たちに好評をいただいています(上の図)。
 全職員向けの健康アプリを作り、そこに健診結果と生活習慣の入力をするだけでポイントがもらえます。そして、それをもとにして自分なりに3つの行動目標(たとえば「1日8000歩以上歩く」「毎日海藻やきのこ料理を1皿ずつは食べる」など)をたてたり、それができているかを90日間チェックしていくことでさらにポイントが加わり、最終的に目標が達成できるとまたポイントがたまります。そして獲得したポイントはローソンをはじめとする加盟店で使うことができます。
 これらは、まずは自分のからだの状態を振り返ってもらうこと、何かを続けようという前向きな気持ちで自分の健康に向き合ってもらうという目的で行っています。毎日アプリの画面を開いてもらうというだけで、ひとつの気づきになり、それを90日間続けることによって、意識変容、行動変容につながることを期待しています。
 また、生活習慣についての37項目のチェックも、全員に行ってもらっています。食や睡眠、生活習慣からストレス度まで、この項目に答えていくことで、自分の状態がチェックできるようになっています。
 こうした全職員に向けての健康推進のための取り組みは、健康保険組合としては2010年から積極的に行ってきましたが、2012年から「健康アクションプラン」で事業主とコラボしはじめたことにより、健診に関しては「業務として全員参加するもの」という意識づけがはっきりし、「ヘルスケアポイント」のような取り組みへの参加者も、開始から数か月ですでに3千人を超えるなど、大きな手ごたえを感じています。

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ハイリスクの方には、行動改善のための
積極的な保健指導と支援を行っています
ローソン健康保険組合事務長 髙橋恵子氏
 全職員に向けてのポピュレーションアプローチとは別に、すでにリスクが高い方たちも残念ながら一定数いらっしゃいますので、その方たちには個別の保健指導を実施しています(図1)。
●健診結果を生活習慣の改善、健診数値の改善につなげるために
 現在、事業主との協同により健診の受診率は100%、再検査に関しても、ほぼ100%の再検率になりましたが、それがなかなか治療や生活習慣の改善に結びついていない現状があります。毎年同じように、健診を受けては再検査、病院に行っては再検査という繰り返しになっている方も多いので、面談から行動目標の設定、目標達成のための支援を、ていねいに行っています。
①糖尿病リスクの高い方への宿泊型新保健指導 
 糖尿病に特化した対策として、健診において数値が服薬治療寸前といったリスクの高い方に向けて、1泊2日の宿泊指導を始めました。糖尿病専門のドクターからのお話、保健師と看護師による食事と生活習慣の改善についての指導、森林浴をしながらのウォーキングなどを行いながら、合宿の最後には、半年間の行動計画を立ててもらいます。
 それに対して2週間後、1か月後、3か月後には電話による支援を行い、5か月目に血液検査をして数値を見直し、半年後に評価、8か月後に次の健診受診という流れで、継続的に行動計画実現への支援を行っています。
②糖尿病性腎症の方への支援
 宿泊指導が糖尿病治療の一歩手前にいる方への支援なら、こちらはすでに服薬など治療を始めているものの、数値コントロールができていない方、頭では分かっていてもなかなか行動として生活改善ができないという方をサポートしていくシステムです。
 数値の改善がみられない理由を面談によって当事者と一緒に考え、場合によっては専門医療機関を紹介したり、主治医の治療方針に基づき電話や面談による数値改善に向けての支援を続けています。
③受診勧奨
 高リスク者へ健診後6か月後の血液検査を促し検査結果提出者には電話により支援を行います。

●今後は女性の健康アップのための取り組みの強化を
 健保からアプローチしても、なかなか参加してもらえないというもどかしさがありました。それが、事業主と一緒に取り組めるようになったことで、まったく違う反応が返ってくるようになりました。宿泊型指導も、90人に案内を出して、60人の方が参加してくださいました。
 今後は、結婚・出産後も働き続けられる企業をめざすという事業主の女性活躍推進の方針とコラボしながら、女性の健康への支援を強化していきたいと思っています。
 乳がんや子宮がんの検診の補助はもちろんですが、たとえば血液検査に甲状腺機能の検査項目を入れていくなど、女性の健康に必要な健診はどういうものかを考え、再構築していきたいと思っています。