訪問レポート 健康経営 元気!つくってますVOL.8

鉄の会社の 元気づくりと ホルンの 素敵な関係
visit_201602_0

新日鐵住金 健康保険組合
宮本信幸さん
(適用グループ部長 保健事業グループ長)

社員と家族 15万人の仲間のために
心地いい元気づくりを考えます
昨年の暮れ、とある企業の創立記念パーティでのできごと。
――どこからか、柔らかくのびのびとしたホルンの調べが絶え間なく流れています。映画音楽からディズニーミュージック、Jポップまで、心地よさに誘われ、その音の出どころを辿ってみると会場の片隅でホルンを奏でていたのはスーツ姿のひとりの紳士、新日鐵住金 健康保険組合適用グループ部長・保健事業グループ長の宮本信幸さんでした。世界に冠たる大企業で多くの仲間の健康管理という重責を担っている宮本さん。この夜はさりげなく多くの人に気持ちのいい時間をとどけてくれたのです。今回の「元気!つくってます」のゲストは宮本信幸さん。日々の業務について、そして、ホルンとの素敵な関係についてもお聞きすることにしました。

鉄の会社は「真面目」「チームプレイ」の精神で、15万人が動く。
――新日鐵住金といえば世界に名だたる基幹産業です。健康保険組合も超がつくスケールですね。これだけの大きな組織と人をまとめるのは大変だと思いますが、いかがでしょうか。
宮本 たしかに超スケールですね。新日鐵と住金が合併した平成24年10月から、今の規模と体制になりました。130の事業所があり、加入者15万人、そのうち7万人がご本人であとはご家族。かなりの大人数です。しかし、当社の社員気質なのですが、皆とても真面目、さらに、やると決めたら結束して取り組むチームプレイの精神があります。個人プレイには走らず、協力する姿勢をもっているんです。これこそが鉄の会社の文化と伝統です。おかげで、健康診断を中心としたさまざまな保健事業を展開するなかで、苦労という苦労は感じた事はありません。
――素晴らしいことですね。保健事業も多岐にわたりきめの細かさを感じますが、どんな特色があるのでしょうか。
宮本 基本は健康管理。疾病予防がいちばんの目的ですから、健康診断が大きな柱です。ご本人はもちろんご家族の健診にも力を注いでいます。
そして、40歳から74歳を対象に国の事業でもある特定保険指導、いわゆるメタボ(メタボリック症候群)対策を重要事項として行っています。
 まず、健診でメタボという診断がでたら、それぞれ、保健師さん、管理栄養士さんとの個人面談となり、その方に合わせた目標を立て、半年間のプログラムを組むという方法をとります。メタボの目安は腹囲、検査値を越えたら肥満対策が必須。肥満は生活習慣病を引き起こす恐れがあり、そうなると医療費も高くなる。メタボ、肥満で検査値と医療費があがるという悪循環、いわゆる負のスパイラルに陥らないように、程度に応じて肥満対策をとります。
――保健師さんと管理栄養士さんの指導を得られるのは心強いですね。
宮本 ひとりひとりに合わせた指導ですからね。肥満対策は、食生活の改善か運動の2つの柱です。それもきちんと指導してもらえます。社員食堂でもヘルシーメニューを選べますし、162円で野菜盛り放題のサラダバーもあります。健康保険組合でもさまざまな工夫を提案しています。一人ずつ健康メモを作って常に自分の体調の変化を知ることもできます。実は私もダイエットに取り組み、食生活と歩くことで目標を達成しました。

こころにもからだにも効く「健康チャレンジキャンペーン」
平成27年度は55%の参加率。
【メタボ→生活習慣病⇔肥満→食と運動 2か月間みんなで生活習慣改善】
visit_201602_1
――多くの人が参加することで知られているのが健康チャレンジキャンペーンですね。とても盛り上がると聞いています。
 パンフレットを見せていただくとびっくりするくらい楽しいコースがたくさんありますね。
宮本 そうなんです。平成26年から始めましたが、最初の参加率が45%でした。この手のキャンペーンで初回でこの数字は驚異だそうです。しかも27年はプラス10%で55%になりました。
 キャンペーンは全21コースあり、その中で自分で取り組みたい目標を立て、3コース以上選んで申し込み、それぞれ記録表に記入しながらスタートします。
 2か月間のキャンペーン終了後、3コース以上達成した人にはささやかですが、達成賞を進呈しました。
 21あるコースの内容はバラエティに富んでいます。肥満やメタボに特化した体を動かす運動不足解消コース、食生活を改善するコース、お酒をちょっと減らそうというコースもあれば、タバコとさよならというコースもあります。
これらはいろいろな効果が目に見えるコースですね。
――ああ、楽しそうと思ったのは、一日一回は「笑ってストレスをふっとばせ」とか、「あいさつ&スマイル」といったコース。これはぜひ、やってみたくなりますね。心によさそう(笑)
宮本 そうそう、運動コースなどすこし頑張りが必要なコースは達成感が得られるので、3つのうち1つはそういうコースを選んでいただきたい。そしてそのなかに「一日一回は笑おう」なんて愉快なコースを入れておくと楽しい毎日が過ごせると好評でした。このキャンペーンの面白さはこういう緩急のつけ方だと思います。血液サラサラ(オサカナスキヤネ&野菜を食べよう)コースとか、計るだけの簡単ダイエットとか、工夫が光るコースもあって選びやすかったと思います。
 キャンペーンは2か月で終了しますが、いい習慣は続けてこそなので、キャンペーンをきっかけに食生活改善や運動を続けている人もいて、こちらの期待以上の成果に満足しています。
――15万人の加入者のうち7万人が社員、その半分以上が参加したとなると4万人が2か月の間にさまざまなコースに参加したことになりますね。キャンペーン中はとくに元気なあいさつをする人、大きな声で笑う人も増えたのだと思うと楽しい気分になりますね。
宮本 そこもキャンペーンの狙いでもありますね。肥満など劇的な効果が期待できるコースを頑張るのももちろん必要ですが、心に効いて笑顔になれるコースもとても大切です。
 これからは、からだと同じくらいメンタル面もそれぞれ気を配るべきでしょう。そういう希望も多いです。実は、私たちの音楽活動が多くの支持をいただいているのも、その効果を期待してのことではないかと思っています。

ホルンの朝練で元気!つくってます
新日鐡住金に団員70名を有するオーケストラ(同好会)あり
――ホルンは宮本部長のご趣味の一つと伺いましたが、実は新日鐵住金のオーケストラ(同好会)の団員で演奏者でいらっしゃるんですね。相当なキャリアを持ちながら、現在も早朝の練習を毎日欠かさないそうですが。
宮本 はい、ホルンは難しくデリケートな楽器です。毎日練習しないと音が出せなくなるので、毎朝6時45分に出社して社員食堂で7時半まで音を出す練習をしています。それが私個人の健康管理のルーティンでもあります。
――ホルンとの出会いは、いつ頃ですか?
宮本 高校の時にブラスバンドで出会ったのが、始まりですね。
その後、新日鐵入社後の室蘭製鉄所でもブラスバンドに所属してホルンを吹いていました。
 本社に異動してからは少しブランクがありましたが、15年前に社内で仲間を募りオーケストラ同好会を結成し、再びホルンを手にして、現在に至ります。最初は有志5人で音楽をやりたいねという気分で募集したら、50人も集まり、翌年から、年に一度、定期演奏会を行うオーケストラになりました。現在は70名の団員がいます。(定期演奏会は、公益財団法人新日鐵住金文化財団が創立した紀尾井ホールにて。http://www.kioi-hall.or.jp/foundation.html)
――呼びかけに多くの人が応えるという姿勢も、鉄の会社伝統のチーム力でしょうか。
宮本 そうだと思います。何かを企画して、呼びかけると思った以上に人が集ります。その結束を活かして、実は、昨年は大舞台にも乗ってしまいました。 演奏会でベートーベンの第九(合唱付)をやろうということになり、新たに合唱団を社内募集し、さらに音大生やプロのソリストにもご協力をいただいて、合唱付きの第九演奏会を、サントリーホールで開きました。合唱団が185名、オーケストラ団員が90名、合わせて275名の大演奏会となり、2000人ほど入るホールが満席に届くほどの盛況ぶりでした。まさか、サントリーホールで演奏する日がこようとは思っていませんでしたが、やっちゃいました(笑)、夢がかないました。
――感動されたでしょうね。先般は企業のパーティで演奏をしていらっしゃいましたが、あのようにソロで演奏されることも多いのですか?
宮本 関連企業のパーティとか、忘年会、新年会等のイベントや集まりに参加するときに、演奏させていただくことはあります。お声がかかれば伺うこともあります。ホルンの音色は柔らかくて穏やかでしょう。パーティのバックミュージックにも心地よいと思います。音楽は人のきもちに寄り添うことができますから、その場に応じた音を作ることも大事だと思います。
 私は、健康保険組合の前には会社の福利厚生の仕事をしていまして、常に社員のためになることについて考える立場におりました。もともと人のために何かするのが好きで向いているのだと思います。なかでも健康づくりは人の気持ちに寄り添うことが必須ですから。それは私の感じる音楽活動とぴったり符合するんですね。
――人の気持ちに寄り添える健康づくりと音楽活動。宮本さんの「元気!つくってます」の楽しさはそこにありますね。

visit_201602_2
~取材を終えて~
人を束ねる力は音感で磨く
 勝手にホルン部長と呼ばせていただき、お目にかかってお話を伺ったら、宮本信幸さんはほんとうにホルン部長でした。ホルンのどこがお好きかという問いに「柔らかい音色」というお答え。早朝の自主練を欠かさない意思の強さとサントリーホールの舞台に立つという情熱を持ちながら佇まいは実に穏やか
 そこがホルンの音楽性と共通するところかもしれません。鉄の会社の伝統は真面目とチーム精神。身をもってそれを実践している宮本さん。
 誰にとっても非常にデリケートな健康問題やメタボ対策に関わる行き届いた配慮や感性は、音楽で培われたものなのでしょう。そして、元気の源は継続と笑顔。ホルンで一番好きな楽曲はラベル作曲の「亡き王女のためのバヴァーヌ」だそうです。
取材構成 フリー記者・山崎陽子+編集部・吉原佐紀子