訪問レポート 健康経営 元気!つくってますVOL.5

乃村工藝社「チームM」

母親の気づきをムーブメントに!
空間デザインから考える
安心、安全、健康な環境を提案します

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キッズデザイン賞授賞式にて
「チームM」の皆さんと乃村工藝社社長・榎本修次氏。
左から2人目が松本麻里さん。
 2015年キッズデザイン賞「優秀賞 男女共同参画担当大臣賞」に輝いた乃村工藝社「チームM」。子育て中の女性社員が部署横断でチームを編成し、「子どもとすごす すべての空間を快適に」をテーマとした施設の提案を行う取り組みの社会有用性が高く評価されました。
育児経験を仕事に生かし、子どもと子どもにかかわる人々が心地よく暮らせる環境を創造することを通して、子育て中の家族や制約のある働き方が必要な人たちも力を発揮できる、新しい働き方も目指したいという「チームM」を訪ね、専任デザイナーの松本麻里さんにお話をうかがいました。
社内向け新規事業コンテストでグランプリ
1年間の検討を経て誕生したチームです
――キッズデザイン賞受賞おめでとうございます。まずは「チームM」の発足までの経緯をお聞かせください。
松本  一昨年、当時副社長だった榎本(現社長)から全社員に、「新規事業のアイデアを出そう」と、「フューチャーアワード」という社内コンテストの呼びかけがありました。そこで現メンバーの渡辺恭子を中心に「女性の活躍の場」をテーマにアイデアを出したところ、初年度のグランプリをいただきました。
 子どもを連れて歩いていると、不便なことがいっぱいあります。「ここにちょっとこんなものがあればいいのに」「この段差が無ければいいのに」「手の届くところにこれがあったらいいのに」……。子育てをして気づかされることは、日常の些細なことではあるけれど、その場の安全や過ごしやすさを考える上でとても大切なことばかりです。
 当社は空間づくりを生業としている会社ですので、保護者の目線で気づいたひと工夫を業務に活かすことで、よりよい空間づくりができ、他社と差別化もできる。そんなチームができるのではないかという提案が認められました。その後、このアイデアを具体化するための検討期間を1年もらい、社内でいっしょに考えてくれる人を募集したところ、育休明けの女性が手を挙げてくれて、切実さ、やる気、自発性など、スタート地点からモチベーションが違う……という印象をもちました。
 「育児経験を通して社会の困りごと、社会課題が見えてくる」という気づきから、多くの企業にヒアリングをさせていただきました「私たちのようなママチームが母親目線を活かしてサポートするとしたらニーズはありますか?」との問いに「ある」というお答えが多かったのです。
 そこでわかったのは、施設設計の第一線で育児中の母親の経験を活かした設計やデザインが実際に採用されることが少ないという現実です。でも、子育て家族を大切にしようという社会の流れを感じ取ってきちんと対応したいと考えている事業者の方は増えていることも実感しています。そのニーズに応えていくことが、私たちにできること、すべきことではないかという確信を得ることができました。
――「チームМ」の“М”というのは?
松本 “マザー(Mother)”と“ムーブメント(Movement)”のMです。
 チームMの構成メンバーは5人、産休中のメンバーもいます。スタートしたばかりの新しい組織なので、今年度は、私だけが専任で、他の4人はこれまでの所属との兼任です。

チームМの取り組み1:母親の気づきを
デザインに活かしていくための拠点
――部署を横断的につなぎながら子育て中の女性社員がさまざまなアイデアの提案を行うのですね。社員の皆さんの反応はいかがですか。
松本 たとえば「ショッピングセンターにキッズコーナーを設け、子ども連れの家族に来てもらおう」という案件があると、チームMに声がかかります。ただ、こうした案件すべてに直接参加できるわけではないので、子育てに関する情報の拠点となり社内に発信していこうという企画をたてています。
 赤ちゃんが手を伸ばすと届く高さは、生後1歳ではこのくらい、3歳ではこのくらい……といった発達の特徴がありますので、赤ちゃんや子育ての知識を編集して、空間デザインに役立つ共有ツールを作成していきたいと思っています。
 社内には30名ほどの育休取得経験のある女性社員がいます。そこで、育休明けの女性社員に呼びかけて情報交換会を定期的に行っています。育休中の生活を振り返ると「こんな点が助かった」「居心地がよかった」といろいろな角度、視点での気づきがあります。こうした空間づくりに有効な情報を整理して社内のデザイナーとともに勉強会を、という準備もしているところです。

チームМの取り組み2:共同研究を通して
安心・安全な空間のエビデンスを構築
松本 また、授乳室について研究をされている東洋大学の仲綾子准教授とのコラボで、「授乳室」の環境についての共同研究をさせていただいています。
 当社が管理・運営を受託している施設のなかに、展示内容の対象を小学生と設定しているにもかかわらず、日中、赤ちゃん連れのご利用がとても多い施設があることがわかりましたが、そこは授乳室の整備が行き届いていません。そこで施設の方々と仲先生と話し合い、動線や室内環境の異なる3タイプの仮設授乳室を設置して、居心地の良さ、使いやすさなどの実証研究に取り組んでいます。興味深いことに、私たちが一番人気になるだろうと予想した授乳室は思ったほど人気がなかったり(笑)、とても勉強になっています。共同研究として報告書にまとめていき、子どもや子育てにふさわしい空間について、エビデンスの構築という分野も、このような活動を通じて今後いろいろと発展させていきたいと思っています。

チームМの取り組み3:社会課題を“見える化”し
「世の中ごと」を企業に提案
――「子育ての気づき」を共有し、「子育て目線」を浸透させていくと同時に、子どもや子育てのための安心・安全な空間のエビデンスを積み重ね、それをデザインに活かしていくということですね。クライアントの方へのアプローチについてはどうですか。
松本 私たちの会社は基本的に、クライアントのニーズ「コンテンツ、空間のデザイン、運営」という要望にしっかりと応えることを目指しています。それをベースに、チームMは「クライアントニーズに加えて世の中にはこういった困りごとがあります。そこを良くするこういうことをしてみませんか?」と提案できるポジションになりうるのではないかと考えています。
 チームMの取り組み姿勢を、社内やクライアントに説明するために図式化してみました(下図)。クライアントのニーズに応えるために、チームMは、①社会の困りごとへの気づきを見出し、②自分たちだけでなく、様々な研究機関とコラボレーションして解決のためにそれらを可視化し、③クライアントのニーズに反映させるのです。それによって、クライアントのニーズが社会全体のニーズにきちんと応えることになるというイメージです。

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チームМから「新しい働き方も
見えてくる!?」と期待しています
――チームMの取り組みイメージ図の「④はたらき方の仕組みづくり」とは?
松本 これは私たちがチームMとして働きながら気づいたことで、ダイバーシティの観点かもしれません。社会での気づきを顕在化していく、共同研究をしてデザインの観点でのエビデンスを蓄積していく、それらのアウトプットの方法を検討していく。こうした分野の仕事や働き方が認められ確立できたら、時間に制限のある人の働き方が見えてくるような気がするのです。
 私たちの仕事の特性として、空間や場の条件、時間に合わせて動くことが前提にあり、勤務時間以外の業務が発生する場合がありますが、様々なライフスタイルからそういう対応ができない時間的制約がある時期があります。時短で働いた場合の成果を、通常業務の場合と比べても、評価軸が合わないと思います。そこで、自分たちしかできない働き方や自分たちならではの働き方へのヒントが、チームМの働き方から見えてくるのではないか。「こういう働き方もある」という気づきのきっかけになってもらえればいいかなと感じています。
 チームMは、限られた時間内で社内ITインフラを活用するなど、出来る限り新しい働き方を目指しているところです。個々人それぞれがおかれている立場を理解し尊重するということが共有できているからこそできる働き方だと思います。
 このような働き方が広がっていけば、意識の部分で改革できることはきっといろいろあると思います。これからは介護をしながら働く社員も増えていくと思いますので、時間的制約のある人、育休明けの女性や介護に携わっている人にも仕事へのモチベーションを保ちながら100%力を出してもらえるためにはどうしたらいいかということも、会社全体で考えていけたらいいと思います。
――チームMが発足するまでは、それぞれの部署で仕事と育児を両立させて働いてこられたわけですが、その経験も生かされているのですね。
松本 私は入社して20年以上になります。主にミュージアムの展示デザインを手がけてきて、産休・育休を2回とり、今、上の子が小学校6年生、下の子が4年生です。社内のデザイナーで産休・育休をとったのは私が二番目ぐらいだったでしょうか、復職時には戸惑うばかりというのが正直なところでした。
 思えばアシスタントがつき、時短勤務もできて恵まれていたのに、つらかったのは、自分の気持ちの調整がつかなかったからだったと思います。日本中を駆け回って仕事に打ち込んでいたのに、今までのようにできない。でも、やろうと決めればきっとできていたようにも思います。どんな働き方を自分が選ぶか、それは会社との関係に加え、自分自身や家族との調整という部分も大きいかと思います。私は時短勤務でも決して仕事への意欲を緩めたことはありません。振り返ればこれまでの時間は全てチームMへの準備期間だったとも思えます。「自分にとって時短勤務が必要な期間はこどもが10歳ぐらいまでが目安」というような子育て経験から見えてきたことを、復職する人たちに伝えていくこと、焦らなくて大丈夫な土壌を作っていくことができるなら、私の専門とする、図面を描き、現場に足を運ぶ仕事が以前より減ったとしても、これから進化し続けるチームMの業務に注力していくのも私の大切なつとめかもしれないと思っています。