訪問レポート 健康経営 元気!つくってますVOL.10

この会社で働けてよかったと思えるように
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株式会社 堀場製作所
理事、管理本部CSR担当
野崎 治子さん

ひとりひとりの個性を
ステンドグラスとして表現した
光輝く人財戦略
 京都に本社をおく株式会社堀場製作所は、計測技術の開発と機器製作を行う分析計測装置メーカーです。医療、食品、交通など生活のあらゆるシーンを支える「測る」技術は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界27か国にグローバル展開を続けています。
 「世界のHORIBA」をつくったのは、創業者が掲げた「おもしろ おかしく」というユニークな社是。そこから独自の企業文化が根付き、いま、各界が注目するダイバーシティプロジェクトが開花しています。そのアドバイザーである野崎治子(はるこ)さんにお話をお聞きしました。

新卒で入社以来、HORIBA社員の笑顔を
つくることが私の幸せです
――世界に約6800人の社員を抱えていらっしゃるそうですね。そんなグローバル企業で、野崎さんは2014年に初の女性役員に就任され、入社以来ずっと人材育成に携わってこられました。
野崎 入社当時は、まさか自分がこんなに長くひとつの会社に勤めるなんて想像もしていませんでした。HORIBAで人事を担当させてもらってから、多くの人に出会ってたくさんのことを学び、だんだん自分に向いていると思うようになったんです。社外の異業種交流会などにも積極的に参加させてもらってきました。いろいろな方々から様々な価値観を教えていただき、鍛えられ育てられたと感謝しています。
 HORIBAでは人材を「人財」と表現し、一人ひとりの個性を大事にしています。それが私にとっても大事なことになって、みんなが笑顔になることがやりがいになってきたのだと思います。
――先進技術の企業で「人柄重視」というのが新鮮に響きます。
野崎 そうなんです。これからますますグローバル化やタイムマネージメント化という価値観がますます求められていくに違いないのですが、そういう社会、そういう時代を支えるのは、実は一人ひとりの中にあるこだわりや創造性ではないでしょうか。
 一人ひとりの個性や発見が会社の財産であり、これからの時代をつくっていく要素になる。だからこそ、個性尊重で、働きやすい職場環境を築くのが私の役目。この会社で働いてよかったと思える仕組みをつくって、それが活用される環境づくりにつとめ、きちんと見届けていきたいと思っています。
――制度は運用の時代になったと言われますが、まさにそのことに取り組んでいらっしゃるのですね。
野崎 たとえば「育児休暇」は、目標にしてきた100パーセント復職が実現し、今後はパートナーの育児休暇取得をすすめていきたいと思っています。さらに育児参加の様子をよく見てみると、親世代の上の祖父母世代が孫の行事などで休暇をとることに気づきますよね。ならば孫育て休暇がとりやすくする「祖父母休暇」も考えてみたい。
――そのように人材活用を、一人ひとりの背景を思い測り、一人ひとりのニーズに合うように、と考えていかれるのですね。
野崎 誰に適用して、誰が喜んでくれるのか?と人をイメージすることがとても大切なのだと思います。
――その発想から「HORIBAステンドグラス・プロジェクト」が生まれたと考えていいでしょうか。
野崎 ステンドグラスという表現は、現社長がかねてからHORIBAの人財の強みとしてよく使っている言葉のひとつでした。それを「ダイバーシティ」にたとえてみてはどうかと、プロジェクトリーダーの森口真希(秘書室・マネジャー)がひらめいたんです。
 教会のステンドグラスの絵はいろいろな色で成り立っています。社員それぞれが個性を発揮する様は、カラフルなガラスが集まって輝きを放つステンドグラスのようだと。これを「ダイバーシティ」と捉えたわけです。
 そして、その集合体が「インクルージョン」と考えると、さらにわかりやすいと思います。モノトーンでは表現できないこと、いろんなカラーがあることも、まさに「人財」というたとえに合っている。ぴったりのいい言葉を見つけたことが意識改革に大きく役立ちました。
――イメージしにくい「ダイバーシティ&インクルージョン」が、すっとわかります。芸術的ともいえる表現のなかに、社員に対する温かい思いが込められていることに胸が熱くなります。
野崎 ダイバーシティの理念については、現堀場社長が海外現地で働いていた時に、身をもってその大切さを実感したことが基本にありました。課題を本社に伝えても、地域差から伝わりにくく、もどかしい思いをした体験を今も忘れずに、機会を捉えては社員に語っています。
 離れている海外スタッフの声もできる限りリアルタイムに反映させていくこと、また勤務する国によって異なる仕事環境のなか、働く人の意欲を向上させ、働きやすさへの理解を深めていくことが大切、と。
 そうした社長の思いは、会社を支えるのは「社員」にほかならない、そしてその社員のために会社としてできることは、より働きやすい環境を築き上げていくことにあるという考えにつながっています。そこでできたのが「HORIBAステンドグラス・プロジェクト」だったのです。
――初代社長の「おもしろ おかしく」の社是のもとに、現社長の国際感覚ダイバーシティ理念が結実したのですね。
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本社ロビーに飾られた、「おもしろ おかしく」の社是と初代社長の写真パネルの前で。

プロジェクトメンバーは
若手とベテランが力をあわせて
――このプロジェクトが準備、検討に入ったのは、内閣府がワークライフバランス施策を打ち出した2013年からですね。
野崎 もうそんなに経つのですね。その年にHORIBA内でも社員のために何かできることはないかということで立ち上がったことを思い出します。意識改革に始まって、今はベテラン社員とこれからを担う若手社員が入り混じって、現在22名のプロジェクトになっています。
――とても活発な取り組みをしていらっしゃいますね。
野崎 はい、講演会、ワークショップ、交流会などを企画・開催して多彩です。たとえば、「マイ・ステンドグラス ワークシヨツプ」では個人、あるいは自分の部署やチームでできるダイバーシティ推進活動を考えます。自らのアウトプットで働き方の提案をするわけです。
 これから誰もが直面する介護課題のための「介護セミナー」や子育てしながら働く女性のための「ワーママランチ会」など、それぞれの世代にあわせたワークショップやイベントも。似た状況下の社員同士が出会い話し合うことで、個々のなかに隠れていた声が引き出せるので、問題解決策も見つけやすくなりました。それぞれの現場に回答があるとつくづく感じます。
 プロジェクトリーダーの森口は子育て真っ最中です。きめ細やかで、柔軟なアイデアを打ち出してくれる貴重な存在です。お互いに支えあって、このプロジェクトをもっともっと広げて育てていきましょう!といつも話し合っているんですよね。
――森口さんからも、ひとこと、どうぞ。
森口 もう十分にお伝えできたかと(笑)。国や性差、世代、思い…など、それぞれ違いがある中で思い込みや、自分の限界を決めてしまう無意識の壁があるのは、ある意味、当然のことと思います。そこを色々な人がつながることでできるだけ越えていきたいと思っています。
野崎 本当にそうですよね!
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晴天の日の京都堀場製作所本社にて。
ベランダからの景色と笑顔の野崎さんと森口さん。

主軸に会社があって
揺れても決して倒れない
やじろべえのような組織でありたい
――また、会社が軸となって、社員同士が支え合う「やじろべえのような組織」にしたいともおっしゃっています。WLBの新しい捉え方、考え方だと感じました。
野崎 出産、育児、介護……人生には様々なライフイベントが訪れますが、そこで退職という選択をせずにすむ会社でありたい。そのためにできることは、人事の仕組みを個々対応で作っていくことです。現場によって必要とする福利厚生は違ってきますよね。どれだけきめ細かくニーズを知ることができるかがポイントになります。
――先ほどおっしゃった父親の育児休業を広げていく施策や、孫を育てるための祖父母休暇などの発想につながるのですね。
野崎 はい、「人に優しい」は、「変化に強い」につながると思っています。主軸に会社があって、社員同士の支え合いがあれば、変化に見舞われても、決して倒れず、どんな時も離職ストップ。ゆらゆら揺れても決して倒れない「やじろべえ」というたとえなんですね。
 育休後の復職率ほぼ100%を達成できたのですから、さまざまな事情を乗り越え、離職ストップ、復職しやすく働き続けられる職場づくりをこれからも考えていきたいと思っています。

~取材を終えて~
  美しい光の造形に、会社の大切な人材を投影した「HORIBAステンドグラス・プロジェクト」。個性を発揮して、会社に反映していく、素晴らしいネーミングに驚きました。大きくグローバルな発展を遂げる組織だからこそ意思疎通の大切さを、イメージしやすい表現に変えて浸透させていく考え方には、学ぶところがたくさんあるのではないでしょうか。
 野崎さんの休日は、鴨川の移り行く季節を感じながらてくてく歩く、をもう20年以上も続けているそうです。よい発想を得る時間? 「いいえ、すっぴんの普段着で、すべてを忘れる自分だけの時間」なのだそうです。
 取材は、会社のモットーである「おもしろ おかしく」そのものの、笑いの絶えない楽しい時間でした。(編集部)

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今月の「元気!つくってます」を読んで

“おもい”に溢れた
企業文化から生まれた
HORIBAステンドグラス・プロジェクト

安藤哲男さんから
(資生堂CSR部、人事部を経て、
2010年10月~2015年9月こども未来財団常務理事)

 野崎治子様へ。
 堀場製作所様の「元気!つくってます」のご紹介拝見いたしました。
 日本でも先進のワーク・ライフ・バランスの取り組みに感心、感動いたしました。
 多様な人材が活躍する企業には新しい価値が生まれ企業価値が向上します。
 グローバル展開する堀場製作所様では、異なる仕事環境の中、社員の働きやすい職場環境を築き上げることを会社の使命とし、いろいろな仕組みづくりと、とくにその活用にベクトルを集中されていることは素晴らしいことです。
 職場環境・風土にはその会社の企業文化が大きく反映されます。
「おもしろ おかしく」の社是のもと、人生の一番良い時期を過ごす「会社の日常」を自らの力で「おもしろ おかしい」ものにして実り多い人生を築いていこうという“おもい”に溢れた企業文化が根付いていることが、この会社で働いて良かったと思う気持ちを養うのだと思います。
 今、企業の中には、せっかく制度を整備したのにあまり活用されず定着していないと悩むところが見受けられます。なぜでしょうか? 制度が使いやすい職場環境でなければ、「制度があるのに使えない(使わせてもらえない)」という欲求不満が増大するとともに、制度を利用する人とそれをサポートする人との間に要らぬ摩擦を生じさせることにもなります。
 ワーク・ライフ・バランス実現のためには、仕組みづくりが必要ですが、その仕組みを動かすには意識改革が必要です。この両輪が一緒に動いてこそ、仕組みが活性化され生産性も向上できるのです。
 堀場製作所様は企業文化に裏付けられた意識改革が浸透しているからこそだと思います。意識改革持続にはダイバーシティの取り組みが不可欠です。
 「HORIBAステンドグラス・プロジェクト」とても素敵なネーミングです。
 一人ひとりの個性や創造性が発揮できる会社とは、様々なガラスが輝くステンドグラスのようだと言い切る社長様の言葉と、野崎様森口様の誠実さに、夢とどのような変化にも対応していく力強さを感じます。
 今後ますます「HORIBAステンドグラス・プロジェクト」が定着し、社員同士が支えあう日本を代表するグローバル企業になられますことを心より応援しています。
安藤哲男
(あんどう・てつお)
資生堂CSR部、人事部を経て、2010年10月~2015年9月こども未来財団常務理事。
資生堂時代には事業所内保育所の立ち上げ、運営に携わり、仕事と育児両立支援を中心に社員のワークライフバランス推進に取り組む。また、こども未来財団では財団活動を通じ、少子高齢化社会における子どもを産み育てやすい環境づくりや、「子育て支援者の支援」を全国各地で推進するなど、企業および公益で一貫して子育てに資する活動に尽力してきた。