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Case 6

WLBやD&Iに取り組むと、職場に「男性VS女性」という対立が生まれる──。そんなふうにイメージする方がいますが、実際はそれほど単純ではありません。
「正社員VS非正規社員」という対立があれば、「女性上司VS男性部下」もあり、時には「片働き+単身者の連合軍VS共働き」といった構図も見られます。
今回寄せられたのは一見「女性VS女性」ですが、よく見ると「先輩VS後輩」「バブル入社組VS就職氷河期世代」など、複数の構図が重なり合っています。さて、どう考えるといいでしょうか。

[相談]

WLB量産世代の私たち、どう戦えば?

W・Mさん(38歳女性・企画会社勤務)

 仕事で知り合った夫との間に、小学校と保育園に通う2人の子どもがいます。今回は悩みというより、思いを聞いてください。
 それは前の職場でのこと。第1子の妊娠を男性上長に報告すると、「産休、育休制度を利用していきましょう」と明言したのでびっくり、がんばらなくちゃと思いました。その社では、私たちがまさに両立支援の一期生といったところ。そこで、復職後も時短勤務で両立を図ったのですが、「子どものことを考えると、責任ある仕事に就くのは無理。キャリアはあきらめないとならないのか」と悩みもしました。
 というのも、40代、50代の女性社員から、「何かを捨てる覚悟がなければ、キャリアは手に入らない」「子どもの熱くらいでオタオタしてはダメ。命に別状なければ預けるのよ」「そのくらいじゃないと、120%、200%仕事にかけている男子とは戦えない」など、何かにつけ聞かされたからです。男性優位社会で鉄壁の構えで働き抜いてきた彼女たちは、スーツ姿まで専用モビルスーツで武装した「シャア」のよう。「私にはハードル高いなあ」と思いました。
 そんな時です、大学の先輩から「お母さんになったのなら、生活用品の企画に携わらないか」と誘われたのは。育児や家事の経験を捨てなくていい、むしろやりがいにつながる、そういう職場ってあるんですね。私、転職しました。やっぱり、「子どもができると、もっと仕事を頑張ろうっていう気持ちになるよね」みたいな会話が、女子の間でも普通にならないとダメだなと思いました。
 私たちって、ワークライフバランス=両立支援の量産世代。モビルスーツでいえば「ザク」や「ドム」なんです。でも、「ダイバーシティ&インクルージョンの初世代かも」と思うと、ちょっと吹っ切れる気がします。後輩の女性たちが自己卑下したり、自分は弱い人間だと感じないで働けるような時代になるといいんですけど。渥美さん、どう思います?

[渥美]

ケモノ道を分け入ってきた人たちに
鍛えられた世代はたくましい

 ガンダムになぞらえた世代観、なるほどと思いました。私にとってシャアな女性たちといえば、もう一つ上の世代で、アイアン・レディと呼ばれたサッチャー元首相が思い浮かびます。道なき時代にケモノ道を分け入ってきた人たちだから強い。武勇伝を聞けばセクハラパワハラマタハラ何のそので、私なんかタジタジです。今のシャア世代はそういう人たちに鍛えられているから、やっぱりたくましい。
 「子どもの熱くらいで」も言いそう、カチンときますよね。私は、子どもの病気に関しては初動が大切だと思っています。なんか変だと思ったら早めに受診したほうがいい。うちの次男は一人歩きを始めた頃、嫌なよろけ方をするので仕事を休んで病院に連れていったところ、長期治療が必要な病気が見つかりました。それを考えると「命に別状はない」は失言かもしれません。
 実際、W・Mさんのようなザク世代からよく聞くのは、「ワーママの先輩だからといって、うっかり愚痴も言えない」という声です。「毎朝泣かれて、後ろ髪を引かれる思いで出社する」なんて愚痴ろうものなら、そんなことじゃやっていけないとか、子どもは泣くのが仕事だとか、手厳しい。
 ただ、私はシャア世代の一人が、「泣くのは情緒が健全に育っている証拠。泣かない子のほうが心配よ」と話すのを聞いたことがあり、なるほどと思いました。本当にその通りだし、「そこまで育てたあなたはえらい!」という意味ですから、こういう言い方ならカドが立ちませんよね。

皆さんが着ているのはノビルスーツ。
インクルージョン・スキルもきっと「伸びる」

 モビルスーツならぬブランドスーツに身を包み、いざ戦わんと仕事へと向かうシャアな女性たちは、私の言い方に変換すれば「お局んど(=おつぼね+粘土)」です。これは、WLBやD&Iの必要性をいくらレクチャーしても頭に入っていかない昭和な男性たちを「粘土層」と呼ぶのに対し、「そういう頑ななタイプは女性にもいるよなあ」と思って私がネーミングしたものです(ちなみに「粘土層」と言い出したのは一つ上の世代の女性たちですよ、私ではありません)。
 その「お局んど」も画一的ではなく、「ワークはもちろんライフも完璧なスーパーウーマン」タイプがいれば、「ワークはほどほどでいい、現状に満足しているから」というタイプもいます。特に前者は隙がなく、男性以上に男性的な面があり、後輩女性に厳しい場合があります。W・Mさんが当たったのは、そういうタイプだったかも。
 シャア世代も、自分たちは何のために仕事をしているのか、考えてみるといいと思います。「今の子どもたちが大きくなるまでに、少しでもいい世の中にしておこう。私たちは仕事を通して世の中づくりをしているのだ」。そんなふうに考えると、世代が違ってもベクトルは一致すると思うのですが。
 と言いながらも私は今回、地雷を踏んだんじゃないかとビクビクしながら回答しています。なぜなら今のシャア世代は私のほぼ同期。バブル期に勢いで入社しているから、イケイケ感が残っているのは否めない(シャアの皆さん、言いたい放題でごめんなさい!)。対してザク世代は、就職氷河期に採用を勝ち取った少数精鋭でしょう。明らかに私たちより優秀で冷静だし、価値観も堅実です。
 ザクの皆さんは、WLBに関しては試行錯誤の時代の波をかぶった量産世代かもしれませんが、着ているのは伸びしろのある「ノビルスーツ」です。学べるところは学び、嫌だったことは覚えておいて、自分が上の立場になったら下にはしない。価値観や背景が違う相手への対応を頭の中でシミュレーションして、インクルージョン・スキルを伸ばす。そういう力が皆さんにはあるはずです。
 そしてぜひ、シャア世代の背景も想像してみてください。「何かを捨てる」の「何か」は、結婚だったり、子どもを持つことだったりします。「私たちは後輩から憧れられていない」というのも自覚しています。私はそういう言葉の端々に悲哀を感じるのですが、シャアたちは決して泣きごとを言わないでしょう。そこで一句──。

私は見た お局んどにも ひと粒の涙

タイトルイラスト 丸山誠司

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