日本総研 研究員レビューVOL.6

若手女性の育成に向けた施策
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ESGアナリスト
小島明子

小島 明子 (こじま あきこ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター/ESGリサーチセンター
ESGアナリスト
1976年東京都生まれ。1999年日本女子大学文学部卒業、2011年早稲田大学大学院商学研究科修了(経営管理修士)。金融機関を経て、2001年に株式会社日本総合研究所入社。環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの企業評価業務に従事。その一環として、女性を含む多様な人材の活躍推進に関する調査研究、企業向けの女性の活躍や働き方改革推進状況の診断を行っている。2016年4月から現在まで、プレジデント・オンラインで連載。著書「“女性発”の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる」(2018年3月27日に経営書院より出版)。
 この4月、新たに若手の女性社員を迎えた企業も多いのではないでしょうか。
 株式会社日本総合研究所の調査(2015)では、若い世代の女性ほど、仕事と家庭の両立できる職場であるかという点を考慮して、就職先を考えたことが明らかになっています(*図表)。仕事と家庭の両立が可能な職場環境を整備していくことは、若手の女性社員の就業継続のためにはますます必要とされているといえます。しかし、職場環境を整備しても、結婚や出産等のライフイベントを経ることで、仕事と家庭の両立が想定以上に難しくなり、思い描いていたようなキャリアパスが描けなくなる女性も出てきます。
 では、そのような状況を踏まえて、若手の女性の育成に向けて、企業ではどのような取組みが求められるのでしょうか。今回は、株式会社マガジンハウス書籍編集部 広瀬桂子様にもご協力をいただき、「専業主婦は2億円損をする」(橘玲著・マガジンハウス、以下「橘氏の著書」と明記)の内容を紹介しながら、考えます。
1.若手女性の早期の育成
 橘氏の著書によれば、仕事の種類を①クリエイター、②スペシャリスト、③バックオフィスの3つに大きく分けています。クリエイターは、拡張可能な仕事であるため、経済的にも大きな成功が得られる可能性がある職種、スペシャリストは、拡張不可能な仕事に従事する専門職の仕事で、大きな責任を担う代わりに高い収入を期待できる職種、バックオフィスは、拡張不可能な仕事で責任も低い職種です。
 どのような職種を望むかは人それぞれです。しかし、企業のなかでより管理職等として活躍してもらうためには、女性自身も①クリエイターまでは難しくとも、②スペシャリストとして価値が出せる人材を目指す意識付けも必要だと考えます。③バックオフィスの場合は、家庭の事情等で、働ける時間が短くなるとその分報酬が減る可能性がありますが、スペシャリスト(あるいはバックオフィスでもスペシャリストにより近い仕事)であれば、働く時間ではなく、成果が出せれば報酬が大きく減ることはありません。将来、やむを得ず配偶者の転勤等の都合で、退職をした場合にも、スペシャリストであれば、転職や同じ会社での再就職もしやすい可能性があります。
 女性の活躍推進に取り組む企業のなかには、若手女性の早期の育成に注力を行う企業もあります。30歳前後で、昇進やそれに伴う異動、結婚、出産といったライフイベントが全て重なると、そのプレッシャーから管理職への登用意欲が下がる可能性があるため、それを回避するために、あえて育成のタイミングをずらすのです。実施時期を早期に行うという視点はもちろんのこと、今後は、その育成の中身についても、若手女性が短い間に、より高度なスキルが学べる内容と、それが必要とされる背景を含めたキャリアへの意識付けが必要だと考えます。
2.再就職しやすい環境づくり
 「企業アンケート調査結果(平成27年3月)」(平成26年度厚生労働省委託調査・出産・ 育児等を機に離職した女性の再就職等に係る調査研究事業/三菱UFJリサーチ&コンサルティング)によれば、再雇用制度を設けている企業の割合は、従業員数1,001人以上の企業では、36.4%ですが、全体で見ると、わずか16.7%であることが明らかになっています。再雇用制度を設けていない理由としては、「制度を作らなくても、必要に応じて個別に対応しているため」(58.4%)が最も多く、「出産や育児で離職する人が少ないため」(51.4%)が続きます。しかし、若手の女性が安心して就業し続ける環境の1つとして、配偶者の事情等で一度退職をしても、再就職しやすい環境づくりが必要だと考えます。
 株式会社日本総合研究所の調査(2015)では、東京圏の高学歴女性のうち、約8割が出産を機に正規雇用の職から離職・転職していますが、正規雇用を離職した女性の理由として、最も多いのは、「できることなら子育てをしながら仕事を続けたいと思っていたが、実際に子育てと仕事の両立が難しいと思ったから退職した」(35.0%)であり、次に「子育てに専念したいと思ったから出産を機に退職した」(31.9%)と続きます。子どもが小さいうちは、子育てに専念したいと考える女性も少なくないことが分かります。
 就職した企業のなかで、管理職に登用された女性のキャリアモデルが直線的なモデル(同じ会社で途切れることなく働き続ける)だけでは、そのモデルに乗れなくなった途端に、女性はその会社でのキャリア構築を諦める可能性があります。場所や時間の面で柔軟な働き方ができる環境づくりはもちろんのこと、いつでも再チャレンジできる機会(制度)があれば、女性自身が若手のうちにスキルを構築する意味も自然と理解できるはずです。

図表 「結婚や出産をしても、働き続けることができる職場かどうか」
という視点で就職先を考えたか(株式会社日本総合研究所の調査より)
最後に
 橘氏の著書のなかの提言のなかには、「好きな仕事を見つけて、それを“スペシャルな仕事”にする」、「スペシャルな仕事をずっとつづけて、「生涯現役」になる」という言葉があります。しかし、男性に比べてライフイベントの事情等でキャリアの機会を逸しやすい女性がこれらを実現することは簡単なことではありません。
 前述した通り、女性自身が若いうちから、キャリアに対する意識を高めることも重要ですが、企業側も専門性の高い仕事や責任のある仕事に挑戦する機会を若手のうちから
積極的に与え、一度離職しても再就職できる機会の提供を整備していくことが期待されます。
本記事は、働き方について、読者の方に役立つ情報を提供させていただくことを目的に、株式会社日本総合研究所の研究員の執筆した記事を掲載するものであり、本ホームページの掲載にあたっては同社の許諾を得ております。