ダイバーシティ2.0を読み解き、自己成長に繋げようVOL.3

社員の健康は経営戦略
~会社も社員も活性化する、
 テルモ株式会社の「健康経営」
「医療を通じて社会に貢献をする」という企業理念のもとに、医療機器、医薬品などの製造販売をしているテルモ株式会社。社員の健康管理に経営的、戦略的に取り組んでいる企業として、経済産業省、東京証券取引所が共同で実施している「健康経営銘柄」に2015年の開始以来、4年連続で選出されました。2017年度には「がん対策推進パートナー賞」(がん治療と仕事の両立部門)、「がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰」優良賞を受賞するなど、社外からも高い評価を受けている企業です。
また、2015年に「KENKO企業会」を立ち上げ、企業の枠を越えて、社員やその家族の健康増進を目指すコミュニティとして、様々な取り組みやアイディアを共有するなどの活動をしています。
最近、注目されている「健康経営」について、テルモ株式会社人事部長であり、テルモ健康保険組合理事長の竹田敬治さんにお話を伺いました。(敬称略)
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――なぜ、健康経営に力を入れているのでしょうか。
竹田:
健康経営推進は弊社の経営戦略の一つです。人材と組織の活性化をするためには、アソシエイトである社員の一人ひとりが活き活きと働くことが必要。その具体策のひとつが「健康経営」なのです。
また、私自身、健康保険組合の理事長を兼任しているのですが、医療費の観点からも考える必要があると感じています。健康経営に力を入れることで、一時的には健保の費用負担が増えるかもしれません。しかし、長い目で見ると、先行投資により社員の健康増進を図ることで、医療給付の抑制にもつながり、結果的に健保財政の健全化に寄与すると考えています。その先には日本の健康寿命を延ばし、国家財政の健全化につながっていくことが期待できるのではないでしょうか。
そのためには、医療産業に従事している立場として足元を固めることが必要です。ところが、弊社の定期健康診断の結果では、生活習慣病の元になるような項目に有所見が増加傾向にあり、諸々の予防措置を講じることで、社員が自社製品にお世話になるようなことは回避したいと考えています。
――具体的にはどのようなことをされていますか?
竹田:
テルモの健康経営方針として、4つの柱があります。
一つ目が、「喫煙率、メタボ率の低減」。喫煙率は5年前と比べ、約10%低減につなげ、また、メタボ率も、22%であった状況を、さらなる低減を目指しています。
二つ目が「がんの早期発見、早期治療、職場復帰」ができる環境を整備しました。
そして、「ウィメンズヘルス」。女性社員のほか、社員のご家族も対象です。女性のがん検診は受診率が高いとは言えません。特に日本人の場合、乳がんはマンモグラフィーでは見つけにくいと聞いておりますので、MRIの検査補助をしています。また、子宮頸がんの予防ワクチンの補助や女性向けに受診啓発のためのセミナーを開催しています。
最後は何と言っても、「自発的取り組みの奨励」です。健康管理は自発的な取り組みが大切。イントラネット(社内専用ネットワーク)などをつかって、成功事例の紹介など、情報の発信をするなど社員の意識の向上や習慣化に努めています。
――最近、特に注目していることを教えてください。
竹田:
生活習慣病の予防や早期発見、早期治療です。特に二次検査の受診は大切。せっかく健康診断を受けても、二次検査を受診せずに放置したら、早期発見、早期治療はできません。とにかく徹底した受診勧奨をしています。
まずは、人事、総務、健保から、二次検査の案内を発信します。そこで受診をしない社員には、弊社の産業保健スタッフから二次検査の受診勧奨が3回。それでも、二次検査に行かない時は、人事より上長に連絡をします。「上長として、部下の健康を守るために二次検査を受診する時間をとってください」と。二次検査受診は仕事です。就業時間中に受診してもらい、その費用の補助もしています。
取り組みを始めた頃は60%だった二次検査の受診率が、現在は90%になりました。今後は、受診率100%を目指します。
――メタボ率の低減のような生活習慣に関することは、職場で対策するのは難しいのではないでしょうか。
竹田:
HRジョイントとレコーディングダイエットを組合わせたシステムが利用できます。HRジョイントは自社製品で、日々、測定する血糖値や体重、代謝性などのバイタルデータをタッチするだけでパソコン上にグラフとして「見える化」。そのデータを弊社のフリーソフト「スマイルデータビジョン」で産業保健スタッフに共有することで、それぞれの生活にあったより繊細な指導が可能です。
また、厚生労働省のメタボ対策にも参加しています。
株式会社ミナケアさんのICTツール「元気LABO」は、弊社の対象者にはとても効果的でした。WEBフォームから必要事項を入力して送信するのですが、このシステムの特徴は、保健師さんとコーディネータさんの2人がサポートをしてくれること。しかもコーディネータさんのタイプを優しい人がいいとか、厳しい人がいいなど、自分の性格にあった人を選べるのです。一般的にこういうものは、継続できなかったり、定着しなかったりするものなのですが、自分と相性がいい人に寄り添ってもらうことで、定着率や継続率が高く、目標の体重減、腹囲減にもつながりました。コミュニケーションは大切ですね。
――禁煙対策にも力を入れているそうですが
竹田:
現在、弊社は敷地内全面禁煙なので、社内は完全に禁煙です。
ただ喫煙を禁止するだけではなく、喫煙者対しては健保から禁煙のサポートが受けられるようにしました。
禁煙外来の通院費用、薬局で購入した禁煙パッチやガムは申請すれば、健保から補助が受けられます。また、病院に行く時間がないという人は、社内で産業医から禁煙指導が受けることも可能です。
また、禁煙というと、我慢やつらいというネガティブな印象がありますが、オリジナルの禁煙カレンダーを作って遊び心を持たせることでそのイメージを和らげています。
それに加えて、禁煙経験者の存在が刺激になるようです。社員が禁煙外来を受診した様子や禁煙に成功したことがきっかけで始めた新たな趣味などをイントラネットで紹介しています。
お子様向けの禁煙セミナーも効果的でした。セミナーの終わりに、喫煙しているご家族向けに「たばこは体に悪いです」という内容の手紙を書いてもらったのですが、お孫さんから手紙を受け取った当時の取締役は、すぐに禁煙。その後は、事業所や子会社で社員に禁煙を啓発する側に回ってくれるようになりました。
――最近は、がんの治療と仕事の両立が注目されていますね。
竹田:
2017年1月にがん就労支援制度を導入しました。それまでも柔軟な対応はしていましたが、正式に人事制度として取り入れた形になります。
大きな特徴は、失効した有給休暇を貯金として、使えるようになったことです。貯金の有休は育児や介護などの場合に、1週間連続の休暇としては使えたのですが、がん治療の特性に合わせ、失効有休を1日単位で取得できるように制度化しました。。
そして、無給休暇制度です。治療などで有給休暇を使い果たしてしまうと、その後は「欠勤」扱いになります。しかし、欠勤の日数が増えると、翌年の有給休暇の発生に影響が出てしまうことに。そこで、無給休暇を作ることで、できるだけ欠勤を作らないようにしました。その他にも、無給短時間勤務や時差通勤などがあります。
地味かなと思える対策ですが、制度として整えることで、会社は治療と仕事の両立を応援しているというメッセージが、罹患された社員にも、また、周囲で支える社員にも届いているのではないでしょうか。
――「健康経営」をすすめるにあたって、大切なことを教えてください。
竹田:
弊社では、健康推進の施策は、現在、人事部や社内に60名ほどいる健康経営推進チームが中心になって実施しています。でも、そのメンバーだけで進めることは出来ません。健康診断の結果を把握している産業保健スタッフが社員に根気強い働きかけをしてくれることで、当事者の気持ちを動かし、人事がサポートできるようになります。
また、「健康経営」を明言するトップからの強いメッセージは、大きな追い風です。
まだまだ、やることはあります。健康は本人が管理することが基本ですから、今後は社員の自発的な取り組みや健康増進活動が真の意味で習慣化されることに繋げていきたいと思っております。
――ありがとうございました。