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渥美がいく!ダイバーシティの現場から 北海道帯広市 六花亭 製菓グループ

24年間、有給休暇取得率100%の真価

エゾリンドウ、ハマナシ、スズラン…。北海道原野の草花を描いた包装紙といえば「六花亭のお菓子だ」と、思い当たる人は多いのではないだろうか。
創業1933年以来、道内での事業展開にこだわる六花亭グループは、製造業でありながら正規、非正規を問わず、全従業員に有給休暇の取得を奨励。
従業員を休ませることにより、同社は何を手にしたのか。
本誌編集委員の渥美由喜が探る。

註)原稿中の数字はすべて、2013年取材時点のものです(2015年には有給取得率100%26年間連続達成をしています)。

全国への発送、引き出物など特注品の個装・発送を一手に担う流通第二部。 社員85 名による3 交代制勤務、通年稼働の部署である。
全国への発送、引き出物など特注品の個装・発送を一手に担う流通第二部。
社員85 名による3 交代制勤務、通年稼働の部署である。
六花亭製菓株式会社 住所:北海道帯広市西24条北1-3-19
六花亭製菓株式会社
住所:北海道帯広市西24条北1-3-19

有休や社内旅行制度を利用して、毎年海外へ出かけてリフレッシュしている流通第二部の村部千鶴子さん。「店舗勤務もいいなと思った時期もありますが、現金を扱わない今の部署は、忙しくても1日がすっきり終われるので私には合っているようです。いかに丁寧かつ効率的に製品を送り出すか、常に課題ですが」
有休や社内旅行制度を利用して、毎年海外へ出かけてリフレッシュしている流通第二部の村部千鶴子さん。「店舗勤務もいいなと思った時期もありますが、現金を扱わない今の部署は、忙しくても1日がすっきり終われるので私には合っているようです。いかに丁寧かつ効率的に製品を送り出すか、常に課題ですが」
本社工場の外に広がる緑の風景。地続きの事業所内保育所からは、園庭で遊びまわる子どもたちの元気な声が聞こえる。
本社工場の外に広がる緑の風景。地続きの事業所内保育所からは、園庭で遊びまわる子どもたちの元気な声が聞こえる。

六花亭の和洋菓子は年間350種類、多い日で45万個が、道内3拠点の工場で製造されている。その工程の多くは、「微妙な加減は機械ではわからない」との方針から、衛生管理を徹底した手作業である。
六花亭の和洋菓子は年間350種類、多い日で45万個が、道内3拠点の工場で製造されている。その工程の多くは、「微妙な加減は機械ではわからない」との方針から、衛生管理を徹底した手作業である。
 家電メーカーの工場や流通センターが整然と並ぶ工業団地の一画に、そこだけ北の大地の面影を彷彿させる緑の一帯がある。木々の間を漂うのはバター菓子が焼ける香ばしさ。主力商品『マルセイバターサンド』を始め、多い時は1日45万個の和洋菓子を生産する、六花亭グループの本社と工場がここにある。
 製造業の常として、同社工場も365日稼働だ。十勝地方に3拠点ある工場には、従業員の半数にあたる約600が勤務。正社員もいれば、「パートナーさん」と呼ばれるパート社員もいる。そして、製造ラインに携わる者は出社したら終業まで、工場の外に出ることは許されない。衛生管理と品質保持のためである。
 同社の従業員はこの製造部門をはじめ、販売、流通、管理部門を含めた全員が、年に129日付与される有給休暇を取得している。休暇の内訳は、通常の週休2日と20日までの有給休暇に加え、「バースデー休暇」と「メモリアルデー休暇」が1日ずつ。さらに、自己研鑽のために最長2か月までの「公休制度」、有給ではないが、従業員6人以上のグループ旅行に限り、旅費の8割を助成する「社内旅行制度」など、ユニークな休暇制度もある。
 「繁忙期でなければ毎日3 ~ 4割の従業員が休業している計算になります」と語るのは、専務取締役の佐藤哲也さんだ。自身も若い頃は、年次休暇と社内旅行制度を利用して海外を旅するのが楽しみだったとか。同社では、この有給休暇取得率100%を過去24年間連続達成している。

口では休めと言いながら
有給休暇を
買い上げていた時代も
「“有休の取得は悪ではない”と、トップが声を大にしなければ、100%取得は難しいでしょうね」と、佐藤専務。専務が入社した34年前も、気軽に休める雰囲気ではなかったという。
 では、24年前に何があったのか。現在の代表取締役、小田豊社長は1972年入社、24年前は副社長だった。
「1960年代に青春時代を過ごした私の根っこには、“労働搾取”に対する激しい嫌悪感があります。
 副社長時代には、机の上に毎朝、退職願が置かれていました。利益が出れば社員を増やし、新しい機械を入れて規模を拡大。口では休めと言いながら、有給休暇を買い上げて働いてもらう、そんなことをしていた時代もありました。“これは労働搾取ではないか”と、ずっと思っていたんです」
 就労環境を改善しよう──。小田副社長(当時)は決意すると、正規、非正規を問わず、全従業員の有給休暇取得率100%を掲げ、「達成できなかった部署の責任者は厳罰に処す」と号令をかけた。それが24年前だった。
 2011年の東日本大震災以降は、一時的に売上が激減したのを機に「残業ゼロ」を目指し、残業代の代わりに、利益が出れば特別賞与などの形で還元する方針に踏み切った。
渥美's eye
 有給休暇取得率100%企業は、自動車業界に数社あるが、六花亭グループのように24 年間連続で達成、しかも残業ゼロという二冠王は珍しい。
 なぜそれができるのか。小田社長の副社長時代に象徴的なエピソードがある。
 ひとつは、退職願が出ると、その従業員を誘って酌み交わし、「もうしばらく頑張ってくれないか」と頭を下げていたこと。
 もうひとつは、歴代の慣例により菓子職人を工場長に抜擢していたところ、メンタル不全に至ったケースがあったこと。「従業員とは、青春も人生も六花亭に捧げてくれている人たちのことだ」と、痛感したという。
 そのような過去を隠ぺいしない、健全な企業姿勢に感服する。また、以来、従業員の「精神健康度」を重視するようになったというのもうなずける。同社では採用時はもとより、入社後も年2回、全従業員に適性検査を実施。専門機関による分析を本人にフィードバックするほか、配置転換の参考にもするとか。これが功を奏しているのか、メンタル不全は3年に1人出るか否かだそうだ。
 また、「1人1日1情報」という制度も注目に値する。日々の雑感から職場への不満など、個人の思いを「情報」として会社に提供することが奨励されているのだ。提供された「情報」は社内新聞に実名入りでそのまま掲載される。ともすると毎日が“リアル下剋上” になりかねないこの制度の実態を、担当総括に尋ねた。

社内新聞を編集する佐々木都紀子さん(手前)と、制作状況を見守る総務部総括の向雅也さん(写真奥)。「約120人分の"1情報"をすべて流し込み、刷り上がるのは午後4時頃。最終便のトラックにお菓子と一緒に乗せて、翌朝には道内の全事業部に届いているようにしています」
社内新聞を編集する佐々木都紀子さん(手前)と、制作状況を見守る総務部総括の向雅也さん(写真奥)。「約120人分の"1情報"をすべて流し込み、刷り上がるのは午後4時頃。最終便のトラックにお菓子と一緒に乗せて、翌朝には道内の全事業部に届いているようにしています」
社員食堂でのランチタイムに、社内新聞に見入る従業員たち。
社員食堂でのランチタイムに、社内新聞に見入る従業員たち。
例年なら閑散期の4月に『マルセイキャラメル』が大ヒット。「有給休暇が集中する時期なので焦りました。一時は人をかき集め、急きょ機械も新調しましたが、2交代制にはしません。どんなに売れても、夜中に働く人が増えるのでは嬉しくないので」と語る、佐藤哲也専務取締役。
例年なら閑散期の4月に『マルセイキャラメル』が大ヒット。「有給休暇が集中する時期なので焦りました。一時は人をかき集め、急きょ機械も新調しましたが、2交代制にはしません。どんなに売れても、夜中に働く人が増えるのでは嬉しくないので」と語る、佐藤哲也専務取締役。

毎朝2 ~ 3時間かけて「1情報」を読む小田豊社長。最近は「内容が優等生過ぎて面白くない」とか。本音は違うのではと検証したところ、作業精度も収益率も上がっている。「従業員の皆さんがいかに勤勉かという証拠。頭が下がります」
毎朝2 ~ 3時間かけて「1情報」を読む小田豊社長。最近は「内容が優等生過ぎて面白くない」とか。本音は違うのではと検証したところ、作業精度も収益率も上がっている。「従業員の皆さんがいかに勤勉かという証拠。頭が下がります」
日々の雑感から
職場への不満まで、
「1日1人1情報」を
社内新聞に掲載
 昼休み、社員食堂にやってきた従業員たちは、席に着く前に必ず棚から印刷物を引き抜く。社内日刊新聞『六輪』だ。
 多い日には12面にも及ぶ紙面は社内トピックスや小田社長の「六花亭談」、副社長以下管理職のメッセージが1面分。ほかは約120人分の「今日の1情報」で埋まっている。どれも顔写真入り、実名掲載だ。
 総務部総括の向雅也さんによると、専用メールボックスに届く「1情報」は毎日700前後。そのすべてに小田社長は目を通し、掲載分を選ぶという。中には、「今回の社長のやり方は気にくわない」「そんな余裕があるなら社員に還元するべき」などの投稿もあるとか。「そういう気概のある投稿に社長の目は輝く(笑)。あえて掲載するようです。“皆さんはどう思いますか?”と考えさせる、そんな意図もあるのでは」
 時には、「川上の部署の不始末のせいで、川下にいる我々の作業が滞った。迷惑極まりない」といった批判も出るとか。すると後日、反論が掲載されたりするので、ますます社内新聞から目が離せなくなるというわけだ。
 もちろん、プライベートでの出来事も「1情報」として掲載される。社内旅行制度を利用した旅の報告は、格好の話題となる。
 流通第二部総括の村部千鶴子さんは、社内旅行制度を利用して毎年のように海外に出かけている一人だ。これまで訪れた国は、メキシコ、ぺルー、チュニジア、カンボジア、ウズベキスタンなど。「人が行かないような国が好きなんです(笑)。メンバーはその都度募り、部署も職位もバラバラ。ですが、社内新聞を読んでいるので初対面の気がしません」
 春には、20代から50代までのグループで沖縄へ行った。「いろいろな部署の人と知り合えて視野が広がるし、非日常的な時間にひたれるのはありがたい。また頑張ろう!という気持ちになります」

「ごろすけ保育園」初代園長の約仕赤絵さん。札幌の店舗勤務だった頃、出産で離職する従業員の多さに悩んだ小田社長から、「事業所内保育所を作らないか」と声をかけられた。折しも自身が妊娠中で、育児休暇と公休利用制度を使い、保育士資格を取得した。「2007年の開設当初は不安でいっぱいでしたが、社長の〝資格より人格だ。胸を張れ〟に励まされました」
「ごろすけ保育園」初代園長の約仕赤絵さん。札幌の店舗勤務だった頃、出産で離職する従業員の多さに悩んだ小田社長から、「事業所内保育所を作らないか」と声をかけられた。折しも自身が妊娠中で、育児休暇と公休利用制度を使い、保育士資格を取得した。「2007年の開設当初は不安でいっぱいでしたが、社長の〝資格より人格だ。胸を張れ〟に励まされました」

同社運営の森林庭園「六花の森」も社員が管理。
同社運営の森林庭園「六花の森」も社員が管理。

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帯広市の本社工場に隣接する事業所内保育所「ごろすけ保育園」。0歳児から預かり、早朝勤務や土日勤務で託児先に困っていた従業員にも喜ばれている。ちなみに敷地内に茂る樹木や草花は、整地されただけだった土地に同社が植栽したもの。
帯広市の本社工場に隣接する事業所内保育所「ごろすけ保育園」。0歳児から預かり、早朝勤務や土日勤務で託児先に困っていた従業員にも喜ばれている。ちなみに敷地内に茂る樹木や草花は、整地されただけだった土地に同社が植栽したもの。
「おでん経営」で人材活用
徹底的な内製化で
従業員自ら「会社磨き」
 「従業員が健康でなければ、おいしいお菓子は作れない」とは、小田社長の信念だ。年2回の適性検査で心のバランスやその変化を自認してもらい、負担過重の懸念があれば配置転換を視野に入れる。再配置先には、これが製菓業だろうかと思う部署もある。
 例えば、自然相手の仕事が向いている従業員には、同社が運営する中札内美術村など諸施設の植栽管理を託す。料理に才があれば、社内食堂や文化施設内のレストランで腕をふるってもらう。事業所内保育所「ごろすけ保育園」の建設にあたっては、社内の建築部門が図面をおこし、「保母さんになるのが夢だった」という従業員に園長を任せた。
 「六花亭に入るといろんな職業を経験できますよ」と、小田社長。「ないのは医者と弁護士の仕事くらいじゃないかな(笑)」
 社長はこのような経営スタイルを「おでん経営」だと語る。大根や玉子など、様々な具材の持ち味や形状を損なわずに炊き合わせる「おでん」。使う具材は社内から探す。「徹底的な内製化です。すると、業務改革についても、“有給休暇をとろう”とか、“残業をゼロにしよう”とか、私は号令をかけるだけで、後は皆さんが自主的に会社磨きをしてくれる」
 社長は「要は、自分が遊びたいから、文句を言われないようにしているだけですよ」と笑い飛ばすが、有給休暇取得率100%達成から始まった業務改革の歴史は、「従業員自らの会社磨き」という成果につながっていた。
渥美's eye
 一人ひとりの持ち味を活かす「おでん経営」は、簡単に聞こえてどの企業にもできることではない。一歩誤ると、本人を甘やかしかねないからだ。
 六花亭グループにも“消極的な個性” を隠れ蓑にしている社員がいるのではないか。それは、「1人1日1情報」の提出回数に表れているのではないか。失礼ながら、そんな憶測を小田社長にぶつけてみた。すると、「やる気あるのかなと思うのは30 人くらい」
 同社の規模なら消極的な社員が2 割いてもおかしくない昨今、30 人は少ない。しかも社長は、そのような従業員を「目が覚めるまで放っておく」という。「うちが適性検査を導入して40 年以上経ちます。あの検査をクリアして入社してきたんだから、どの従業員も粒よりのはず」というのが理由だ。
 製菓業界はもとより、「第4 回ワーク・ライフ・バランス大賞」に輝くなど経営面でも注目される同社だが、実は表彰嫌い、マスコミにも積極的に出ない。東京進出も端から視野にない。六花亭のお菓子を食べてくれるお客様の評価こそ本物であり、従業員の質は必ずや製品に反映される。そのための会社磨きだという話に、背すじが伸びる思いがした。

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構成・文/安里麻理子 写真/吉永考宏