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Case 5

「多重介護」「ダブルケア」という言葉をごぞんじでしょうか。
「多重介護」は、自分もしくはパートナーの両親が、あるいは自分の親とパートナーの親の両方が、そして親も祖父母も要介護者であるなど、複数の介護が重なった状態を指します。パートナーが要介護者で、親の介護もしているというケースもあるでしょう。
「ダブルケア」は、子どもがまだ手がかかる年齢で親が要介護になったなど、育児と介護が重なった状態を主に指します。
いずれもケアする対象が複数いて、世代をまたがる場合もあるところが、ただでさえ大変な状況を難しくしています。今回は、自分の両親とパートナーの親、3人のケアが必要になった方からのご相談です。

[相談]

40代共働き、両方の親の介護が同時進行中

匿名希望(48歳男性・IT関係営業職)

 私たち夫婦は共働きで子どもはなく、私の両親と二世帯同居です。43歳の妻はIT関係店舗副店長として専門性の高い仕事に就いています。
 私の父親は数年前から物忘れが激しくなり、母も体調を崩しがちでした。そこへ8か月前から父親の徘徊が始まりました。私たち家族には「うちのお父さんが認知症だなんて」と認めがたい気持ちがありましたが、妻が介護経験のあるご近所の方に相談したところ、区の地域包括支援センターを紹介されました。受診と介護保険の申請をすることになり、結果はアルツハイマー型認知症で、要介護1の認定。ケアマネージャーが丁寧に聞き取りをしてくださって、週3回のデイホーム通所と週2回1時間ずつのヘルパーの利用をすることになりました。
 この時、夫婦で話し合い、妻にはこれまで通り勤務を続けてもらい、私が父の主たる介護者となり母親の負担を減らしていく、と決めました。「僕の両親のことだから」という決心があったのです。上司に事情を伝えたところ、週2日の短時間勤務と月2日の休業、という勤務体制が認められました。介護経験をもつ上司でしたので、私の決意を理解してもらえたとありがたく思っています。
 それから半年後、今度は一人暮らしをしている妻の実母の介護が現実のものになりました。1週間ほど前のこと。庭で転び圧迫骨折。医師のすすめで全身を検査した結果、小さな脳梗塞の発現も。妻はこれまでも有給を利用して、40分ほどかかる実家へ出向いては通院の付き添いや看護をしてきました。いずれも半日や1日の単発だったからこなせたのですが、介護が長引くことを念頭に、働き方を考える時期がきたと感じているようです。私は「近所にお義母さんを呼び寄せて、介護と仕事を両立してはどうか」と提案していますが、妻は「1年くらいの休業をとり、いずれは退職して、両方の親の世話や介護に専念しなくてはならないのかも」などと言います。仕事のキャリアをどうするか、不安も大きいと思います。
 夫婦ともに老親介護に直面して、まだ気持ちの準備が追いつかないでいます。

[渥美]

仕事は絶対に辞めないほうがいい。
介護休業が分割取得可能になる動きも

 夫婦それぞれの親御さん3人のケアが同時進行とのこと、本当に大変だと思います。ご夫婦ともにお体を大切になさってください。うちは次男の誕生が父の介護と重なり、ダブルケアに突入したと思ったら、次男が難病を発症して看護を迫られトリプルケアに。いずれも進行中なので身につまされます。
 ご相談内容から希望が見えたのは、夫婦お二人とも仕事を持っているところです。互いの理解もあります。上司の方にも恵まれましたね。いち早くカミングアウトされたことも、とてもよかったと思います。私も父の介護が必要になった時、思い切って当時の上司であった社長に打ち明けました。介護に時間を取られながらも仕事を続ける体制を認めてくださり、本当に感謝しました。さらに、同じように働きながら介護している人たちが「私も」と名乗り出てきて、心強く感じたものです。
 さて、仕事はお二人のどちらも絶対に辞めないほうがいいと思います。責任感から離職、介護に専念したものの、メンタルに支障をきたす人は大勢います。介護はゴールが見えない下り坂を歩むようなもの、積極的にストレス解消しないと自分が潰れてしまいます。その点、仕事をしていればもちろんストレスを感じますが、介護でのストレスとはまったく違う種類のものなので相殺されます。これを私は自ら経験し、「ワークとライフのストレス相殺効果」と呼んでいます。
 もし介護休業を取得するなら、現在、厚生労働省が介護休業の分割取得を可能にする方向で動いています。新しい制度は2017年に施行予定なので少し先になりますが、様子を見てはいかがでしょう。そのほか、会社によっては法令以上に制度を充実させていますから、勤務先の福利厚生制度を見直してみてください。

使えるものは全部使い
「てじかあこ」でバトンリレー

 ご夫婦に兄弟姉妹や親戚がいらっしゃるなら、介護分担を決める会議を開くこともおすすめします。その際、誰それは若いから体力があるとか、あなたは働いていないから時間があるなど言い出すとこじれるので、ビジネス会議のように、合理的に淡々と決めていくことです。その方法として、私は「てじかあこ」を提唱しています。
 て:手が使える
 じ:時間が使える
 か:お金を出せる
 あ:頭を使う
 こ:心はある
最も強い発言権を持つのは、身近で介護をする「手が使える」人です。遠いし時間もないという人には、金銭的な負担をしてもらいます。それもできないなら、情報収集や様々な手続きに頭を使ってもらう。同情するだけの人は、他の人のいうことを聞くことです。さらに、分担が集中する人には、相続を絡めて金銭的な報酬を保障します。
 そして、共働きということですから、お金で解決できることはそうしていいのです。公益財団家庭経済研究所の調査に、「要介護高齢者の在宅介護にかかる支出は月額平均6万9千円」というデータがあります。訪問ヘルパーやデイサービスなど、介護保険による介護サービスの利用を含めた金額です。要介護者にとっても、プロによる手慣れたケアのほうがありがたかったりします。お二人は仕事を続け、それぞれの得意分野を伸ばして支出を上回る成果を出すのだ、そう考えてはいかがでしょう。
 身内だけでなく、考え得るリソースを総動員してバトンリレーすることも大切です。ケアマネージャー、ご近所、地域のサポートなど、バトンを受け取ってくれる相手を探してください。そして、次は自分が誰かのバトンを受け取ってください。私は「介護は介互」でもあると考えています。
 1人の高齢者を何人で支えるか、社会保障の支え手の減少を表す言葉に「胴上げ、騎馬戦、肩車」がありますが、これは、50年前は13人で支えていたのが、今は3人の騎馬戦になっている、やがて1人で肩車する時代が来るというものです。そうならないように、そしてご相談者のお気持ちが少しでも前向きになることを願って、一句です。

介護は介互 肩車でなく騎馬戦で

タイトルイラスト 丸山誠司
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