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Case 9

 「マタハラ」ことマタニティハラスメントという言葉が、だいぶ世の中に浸透してきました。
妊娠を理由に降格された女性が勝訴し、最高裁が事業主に意識改革を迫ったり、「妊婦はいらない」と言って解雇した病院が厚生労働省によって実名公表されるなど、国も本格的にマタハラ被害に乗り出しています。
とはいえ職場には、ニュースにならないだけで大小様々な言葉の暴力が横行しています。今回登場する上司も、無意識に不適切な言葉を発していることに気づいていない典型です。

[相談]

妊娠報告した時の上司の言葉にショック

Y・Sさん(32歳女性・金融関係)

 妊娠判定で、第1子の妊娠がわかりました。これから職場に迷惑をかけるかもしれないので報告は早めがいいと思い、上司であるプロジェクトリーダーにさっそく伝えました。すると、その男性上司(50代前半です)が言うには、「まだ、ちゃんと生まれるとわかったわけではないから、きちんと仕事をしてね」。
初めての妊娠で嬉しかった反面、判定直後で不安もいっぱいだったところに、そんなふうに言われてショックでした。もう仕事を続けていく気持ちになれません。

[渥美]

ネガティブ体験をポジティブな言動に
変えるスキルがあります

 この発言はひどい、人間性を疑います。上司にお子さんがいるかいないかわかりませんが、いたとしてもきっと妻任せだったでしょう。「授かった生命を、責任をもって守る」という当事者意識が完全に欠落しています。
私が昨年、NPO法人マタハラNetが公表した『マタハラ白書』の作成をお手伝いした時も、「オレに相談なしに妊娠するな」「流産した子はもともと生まれたってダメな子だった」など、信じられない発言をする男女が職場には無数にいる、という実態が浮き彫りになりました。
 ただ、厚生労働省の見解では「原則として、妊娠・出産、育休等の事由の終了から1年以内に解雇や降格など不利益取扱いがなされた場合」がマタハラなので、今回のお悩みは違法とは言えません。それでもやっぱり許せないですね。
 私はこういうことをされた時、頭の中で「お恨み帳」というのをつけてきました。私が相談者さんなら、まず上司の何が悪かったかを分析して「お恨み帳」につけます。「ちゃんと生まれるとわかったわけではない」という発言が該当するでしょう。
 次に、自分なら何と言うか、真逆の言葉を10個以上考えます。「おめでとう。赤ちゃんを大事にしようね」「今は大事な時期だから、仕事は後回しでいいよ」「何かあったらいつでも言って。できるだけのことをするから」など、どんな言葉をかけるとよかったか考えます。
私の中でこの作業は、「ネガをポジにひっくり返す」というイメージです。そして、ネガティブな言葉ではなく、ポジティブなほうを何度も反芻します。なぜそうするかというと、やられたことを3倍返ししても、世の中はよくならないからです。嫌な目にあったらそれをひっくり返して世の中に戻したほうが、何倍ものパワーになるんじゃないでしょうか。
「お恨み帳」は、そんなふうにネガ体験をポジな言動に変えるスキルです。決して丑三つ時に上司ワラ人形に釘を刺すようなものではありませんが、紙に書いてもいいです。そして最後に、「あいつよりも上等な人間を目指すぞ」とか、「お前はすでに終わっている。じきに降格だ!」など、さんざん紙に向かって罵倒します(笑)。すると次に顔を合わせた時、「この人はやがて左遷だ、お気の毒」みたいな、憐みの気持ちが湧いてくるから不思議です。
自分の口から出た言葉はいずれ自分に還ってきます。ポジティブな言葉を反芻したご相談者さんはきっと、部下に適切な配慮ができる素晴らしい上司になること間違いなしです。

あなたの人生のハンドルを
握っているのは誰ですか?

 ただ、上司の発言以外に気になった点があります。それは、ご相談者さんの仕事に対する姿勢です。
 シビアなことを言いますが、仕事は上司の良し悪しで続けるものではありません。もし上司のせいで仕事を辞める気になったとしたら、「あなたの人生なのに、あなたはハンドルを握っていない」ということになります。上司はあくまでも脇役に過ぎず、この人は小人物で、しかも悪役です。そんなヤツに大切な人生のハンドルまで乗っ取られていいでしょうか。
 この機会にぜひ、「自分にとって仕事とは何か」を自問自答してください。今の仕事を辞めるにしても、考えた末の前向きな転職ならいいでしょう。でも、仕事をしていく覚悟がないのに上司批判して離職しても、この先何かあるたび同じことの繰り返しだと思います。
 さあ、楽しい未来も想像してみませんか。赤ちゃんが生まれて育休に入ったら、職場に連れて行って悪役上司に抱っこさせることも一つの手ですよ。「絶対イヤ、あんな奴にうちの可愛い子を触られるのは」と、ワーママのほとんどがそう言います。でも、小人物の悪役に限って、コロッと変わりますから。自分の身体に残る触感というのは大事で、ただの赤ん坊という普通名詞が「オレが抱っこした○○ちゃん」という固有名詞へと変わり、世界で一人しかいない特別な存在になるんです。
 職場復帰後、保育園から発熱ですぐに迎えに来てくださいという連絡が入ったときに、「オレが抱っこした、あの○○ちゃんが高い熱を出したって、そりゃあたいへんだ、すぐに行ってあげなさい」となる・・・かもしれません。
 さらに、もう少し大きくなったらサンクスカードを書かせるといいでしょう。「おじさんは、いつもママを助けてくれてありがとう」とか。それを読んだ悪役上司に少しでも人間の心があれば、「この子のことを生まれてくるかどうかわからないぞなんて言った俺って……人間失格だ!」なんて。自分の口から出た言葉は自分に還ってくるので、いずれ自分が裁かれます。

上司の勘違い
エピソード×2

 マタハラと言えば、私は長男が生まれる時に育休を取ろうとしたら、ちょっとしたハラスメントに遭いました。そのとき、私はパタニティハラスメント略して「パタハラ」、さらにマタハラとケアハラ(介護している社員へのハラスメント)を総称した「ファミハラ(ファミリーハラスメント=家族を理由にしたハラスメント)という言葉を造りました。
 しかし、8年くらい前のことで、私の造語はまだ浸透していませんでした。前の職場に嫌気がさして転職したあと、上司に「パタハラとはマタハラの男性版です」と説明したら、「お前は男スパイか?!」と。何を言いだすのだ、この人はと思ったら、女スパイの代名詞「マタ・ハリ」と勘違いしたらしいです……。
 東洋のマタ・ハリこと川島芳子は男装して男社会に潜入したことを思うと、女社会に潜入している私を揶揄する言葉として、なんだか奥が深い気もしますが、まぁたまたまでしょう。
 また、酔うとポンポコリンのビール腹を叩いて、「俺はマタハラだ!」と叫ぶ上司もいました。どうやら「妊婦さんみたいに大きな腹=マタニティな腹=マタ腹」だと本気で思い込んでいたらしいです。しかしまあ、どちらも今回のお悩みのトンでも上司に比べれば可愛いものなので許します。
 ご相談者さんが出産にも仕事にも前向きになることを願っています。

マタハラを せめてマタハリと 間違えろ

タイトルイラスト 丸山誠司
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