日本総研 研究員レビューVOL.5

人事部門は働く女性のキャリア形成支援にどのように取組むべきか(2)
長期的な視点にたった
キャリア形成支援
soken_20180208_m0

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
人事・組織コンサルティンググループ
マネジャー
榎本久代

榎本 久代 (えのもと ひさよ)
ゴルフ場、スキー場等総合リゾート事業運営会社の人材開発部門を経て、株式会社日本総合研究所に入社。人事コンサルティング業務に従事。企業特性、事業特性にフィットするトータルな人事制度の設計、運用支援、及び制度定着のための各種研修を担当。近年は女性活躍推進のための調査及び従業員の意識改革研修等についても支援。
 厚生労働省「平成28年度雇用均等基本調査」によると課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.1%となっていて、平成21年度の同調査結果の10.2%から2%程度高くなったにすぎません。女性の管理職登用は進んでいない状況です。
 平成25年の同調査で女性管理職が少ない理由を聞いたところ、「現時点では、必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいないため」という回答が6割近くありました。教育の機会が限定され、主に定型業務を中心に担当してきた女性社員が大半を占める中、いきなり管理職に登用することが難しいことは理解できるところです。
 しかし、たとえ一般職であったとしても、様々な継続就業支援策により、長期勤続が可能となり、かつ図2に見られるように、年齢とともに女性の就業率が高くなっていく状況を考えると、総合職、一般職という区分に関わりなく、企業のなかで長く働くことを想定した女性の能力開発への取組みは人事部門として避けられない課題となっています。
 2016年の労務行政研究所の調査では「女性社員に対するキャリア研修を導入、あるいは導入を予定している」企業は全体で56.3%となっています。規模別にみると1000人以上規模では83.3%ですが、300 ~ 999人では51%、300人未満では36.7%に留まっています。女性活躍支援に対する課題認識やそのための施策の取組みが規模によって大きく異なっていることがわかります(労政時報3915号より抜粋)。中堅、中小企業の多くは中長期の視点で人材育成に取り組むことが難しい環境にあるとは思いますが、今後の人口減少を考えれば、今いる人材をどれだけ成長させ、戦力として有効な人材に育成していくかは、会社の将来に大きく影響するところではないでしょうか。
 現在、キャリア教育は単に職務キャリアに限定したものではなく、生涯を通じたキャリア(ライフキャリア)をどのように形成していくのかを考えていく方向にあります。経済の環境変化の激しい中、自分がやりたい仕事が常にできる時代ではありません。また、組織に所属している限り、望まない職務を担当しなければならないことがあります。自分が望む将来像に向けて、たとえ好まない仕事であっても、その中でどのような経験をし、どのように次につなげるものを身につけていくのか、そうした前提でキャリア形成を捉え、一人ひとりの社員が主体的、かつ前向きに自らのキャリアを考えていく、「キャリア自律」を促すものです。
 出産、育児など、人生における環境変化の波が大きい女性にこそ、ライフキャリアとして長期的にキャリア形成を考えていく機会を提供することが必要です。また、家事育児といった仕事以外に大きな役割を担いながら長い職業人生を歩んでいくためには、何のために仕事を続けていくのか、その“エンジン” となるべき何かを見つけることは何よりも重要です。そのためにもキャリア形成支援への着手は必須ではないでしょうか。筆者がキャリア教育を進める上で特に重要と考えているのは、上司と女性社員、そして人事部門の三者が一体となって取り組む仕組みを作ることです。
 上司への教育のポイントは、女性社員が受けるキャリア教育の内容の理解と、今後具体的にキャリア形成(職務経験の蓄積や職務範囲の拡大など)をどのようにサポートしていくかについて考えること。女性社員はキャリア形成についての理解と、今後自らがキャリア形成をしていく上で大事な価値観への気づきを得ること。そして中長期的に自分の将来像を考えることがポイントです。人事部門はこの両者間の軸となり、双方の関係性が円滑に進むようにサポートするとともに、キャリアコンサルタントを社内に育成するなど、幅広くキャリア相談に対応できる体制を整えることが重要です。
 日本企業の多くは男性正社員という一つの大きな塊に向けた人事制度を構築し、その運用を続けてきました。しかし、共働き世帯が専業主婦世帯を逆転した今、男性正社員に対しても多様な働き方の受け皿が必要となっています。本稿に提示した「人事システム運用の柔軟性」と「長期的な視点にたったキャリア形成支援」は組織の全ての人材に当てはまるのものであり、人事部門の早急な取り組みが望まれるところです。

(了)